0  26/02/16(月)22:52:11 No.1402739787 そうだねx8


【牛乳寒天SS部門エントリー作品】
1  26/02/16(月)22:52:24 No.1402739865 [1] +
「んぁ〜?ねぇサチ、もしかして寒天って牛乳にそのまま溶けない?」
ジュンが間抜けな声を上げたのを聞いて、サチは深いため息をついた。果物缶詰を見繕うのは一旦やめにして、シンク下の棚を閉める。立ち上がってジュンのいる調理台の方を見て、もう一度深いため息をつくことになった。
「なんでもう入れてんのよ」
ジュンの手元には、牛乳が注がれたボウルと、蓋の空いた寒天粉の袋。彼女がボウルに寒天粉を入れた後であろうことが、サチには見てとれた。
「いやさぁ、牛乳寒天なんだから、牛乳に寒天入れればと思うじゃん」
ジュンは悪びれもせずに木のヘラを振り回していた。サチはこれ以上ため息はつくまいと決心し、問い詰める。
「アンタねぇ、レシピくらい確認しなさいよ」
そう言って横手に置いてある材料メモを裏返して指先でコツコツと叩く。
「わざわざ、私が、アンタのために、書いたんだけど。読める?まずは水を煮立たせて寒天を溶かすの」
「材料のとこに水とか書いてなかったケド」
「当たり前でしょ。これは買い出しのメモなんだから」
サチは結局もう一度大きなため息をついた。
「缶詰は今回は保留ね」
2  26/02/16(月)22:52:44 No.1402739990 [2] +
「はぁ〜」
ジュンはふてぶてしくもサチを真似して大げさにため息をついて見せると、不満そうにボウルの中を凝視した。
「これにどうにかして、今からどうにかならないの?」
「んーどうかしらね。寒天は温度が高くないと溶けないの。でも牛乳は加熱しすぎると変質するから」
「は?こんな名前しといて牛乳と寒天って仲悪いの?」
「別に仲がいいからこの名前ではないから」
サチは木のヘラを適当にかき回す。
「なんであんなに自信満々だったのかしら」
「これ失敗しそうってこと?」
「まぁそうね。アンタにはムリでしょうね」
サチはあえて冷たく言い捨てた。これで少しは反省してくれればよかったが、思惑通りにはいかない。
「ままならないヤツだなぁお前」
などと恨み言を吐きながら、ジュンはボウルをゲシゲシとつついていた。自分で生み出した忌み子ではないか。サチは注がれた牛乳を、少しばかり憐れんだ。
3  26/02/16(月)22:53:03 No.1402740115 [3] +
思えば、少し前に突然ジュンが牛乳寒天を作ろうと言い始めたときから、面倒なことは始まっていたのだ。普段はお菓子作りはおろか、料理すらまともにしないこの女だが、何かするをするとなればどんなおかしなことでも始めるのだった。
「2月16日は牛乳寒天の日だから!その日に牛乳寒天を作る!」
「なんでその日が牛乳寒天の日なの」
「知らない!でもやろう!」
「私の都合は?」
「サチはどうせ暇でしょ!友達いないんだから!」
腹が立ったが、事実に反論はできない。サチはそういう星の元に生まれたのだ。その後サチが調べてみたところ、その日は寒天の日であり牛乳寒天の日ではなかった。嘘ではないか。しかしその程度は些事だ。ジュンはもう実行する気でいる。こうなれば、断るともっと面倒なことになる。なんで付き合ってくれないのか、ふたりの絆は無いのか、などとうるさく騒がれて、生活を乱される。昔から変わらぬ経験則から、サチは渋々了承し、牛乳寒天の準備をしたのだった。
4  26/02/16(月)22:53:21 No.1402740241 [4] +
「まさか牛乳寒天すら、とはね」
「すらってなんだよぅ」
「こんなに簡単な料理ないわよ」
サチはジュンを横にのけて、牛乳を鍋に移して慎重にコンロにかけた。最初からこうすればよかったのだ。ジュンは素直に後ろから見ていた。
「大体なんで牛乳寒天かな…」
鍋を見守りながらサチが適当に呟くと、ジュンは耳聡く聞きつけて背中にまとわりついてきた。
「だから牛乳寒天の日!」
「寒天の日ね」
「寒天の日ィ!」
「耳元で叫ばないで……」
ジュンがおどけて手で口をおさえる。鍋の中では牛乳がくつくつと音を立て始めていた。少し火を弱める。
「アンタ、これまで料理とかまるでしなかったのに。いつもいきなりよね」
「思い立ったが吉日なんだよん」
5  26/02/16(月)22:53:38 No.1402740360 [5] +
「そんなにお菓子作りがしたいなら、バレンタインにチョコでも作ってくれればよかったでしょ。今年も何にもしないで人からもらうだけもらって」
「だってだって、バレンタインつまんない〜。溶かして固めるだけ〜」
「牛乳寒天も固めるだけでしょ……まぁアンタにやらせたら、チョコをそのまま火にかけたりするでしょうけど」
「え?いやだなぁ、いくらアタシでもちゃんと鍋に入れて火にかけるよ」
呆れ果てた物言いだ。この女は湯煎を知らないようだった。いや、今日の感じを見ると、水を知らない可能性もある。サチは会話を諦め、同時にコンロの火を止めた。鍋の中を確認すると、案外いい感じに溶けていた。
「できてそ?」
「ま、思ったよりは」
「さっすがサチ!」
6  26/02/16(月)22:53:56 No.1402740474 [6] +
無責任な賞賛に乗せられて、結局はこして冷やすところまでサチがやることになった。ジュンは「固まるかな〜」などと言って横で小躍りしている。こんな単純作業に多少の疲労感を感じていることに、サチは肩を落とした。
「これ、私がひとりで作ってたら、手間がいくつか省けたかもね」
サチがぼやくと、ジュンは焦ったようにサチの体をゆさぶった。
「えぇー、ダ、ダメだよ!わたしたち一緒に作らなきゃ!」
視界が上下に揺れる。サチはタッパーを冷蔵庫に入れる前に、話を聞いてやることにした。
「どうしてよ」
シンクにもたれかかって尋ねると、ジュンはあたふたと喋り始める。
「え、えーとね。えと、だってさ、ほら、今日こんなことしてるの、きっとアタシたちだけだよ」
「……まあそうね、こんな変なこと」
ジュンは指をくるくると回しながらあくせくと喋っていた。
「ほら、バレンタインとかさ、みんな知っててさ。誰彼構わずチョコ渡しまわってさ。せーので前ならえで、同じことしてて。それがつまんないの」
7  26/02/16(月)22:54:14 No.1402740619 [7] +
サチは黙って話を聞いていた。
「でも今日は違うじゃん。みんな見向きもしてないよ。牛乳寒天の日に」
「寒天の日」
また訂正すると、ジュンがサチの唇に指を立てて、ないしょのポーズで黙らせる。
「アタシね、サチとなんかやろうってとき、あ、見つけた!って思ってるの。今ならこれがアタシたちだけのものにできるって思うの。わかるでしょ?」
ジュンの言葉に、サチは過去を思い出した。彼女になかば無理矢理付き合わされてきた、おかしなアクティビティが頭をよぎる。少しばかり、楽しい思い出たち。
「つまりね、だから、今日は、アタシたちだけの日になるってことなの」
ジュンがニコッと笑った。サチは、その悪戯っぽい笑顔に、ドキリとした。ジュンの主張は、よくわからないものだった。別に寒天の日なのだから、知ってる人間も、寒天を作っている人間も大勢いるだろう。それに、サチが一緒にやらされる理由にはなっていない気がする。でも、サチはそれ以上の追求をしなかった。
8  26/02/16(月)22:54:35 No.1402740783 [8] +
「じゃ、せめてこれを冷蔵庫に入れるとこくらいはやってくれる?共同作業ね」
サチがタッパーを渡すと、ジュンは「お、仕事ができた!」と、子どものように跳ねながらそれを冷蔵庫に運んでいった。
多分、サチ自身、ジュンの気まぐれにそこまでの理由を求めていなかったのだろう。これで今日はふたりだけの日になったのだろうか。それは、悪い気分ではなく、むしろ全く満足であった。視界の先ではジュンが冷蔵庫を閉めていた。
「ね、サチ。来年も牛乳寒天やろうね。次はいろいろ工夫して」
サチは苦笑した。
「どうせ来年には忘れてるわよ」
「なら別のことでもいいよ」
「じゃあせめて得意なことやったら?」
「できないことの方が面白いってね」
話しながら手を動かしていたら、調理台はあっという間に片付いていた。改めて牛乳寒天とは、なんと簡単な料理だろうか。あのバイタリティを持ちながらこれを失敗できるのが、ジュンという女なのだ。
「ままならないヤツね、アンタ」
サチが言うと、ジュンはピースサインを返した。
9  26/02/16(月)22:55:08 No.1402741007 [end] そうだねx1
おしまい
10  26/02/16(月)22:58:39 No.1402742516 そうだねx2
11  26/02/16(月)22:59:11 No.1402742786 そうだねx1
何の何の何!?!?!?
12  26/02/16(月)22:59:50 No.1402743059 そうだねx3
文系の寒天バトラー!?
13  26/02/16(月)22:59:56 No.1402743104 +
えっ
14  26/02/16(月)23:00:08 No.1402743194 そうだねx7
>牛乳寒天SS部門
15  26/02/16(月)23:05:13 No.1402745596 そうだねx5
>ピースサインを返した。
まで読んだ
16  26/02/16(月)23:07:38 No.1402746728 +
読みやすくてしかも面白かった。
牛乳寒天を食べてないので0点です。
17  26/02/16(月)23:08:00 No.1402746871 +
ついつい全部読んでしまった。寒天だけに。
18  26/02/16(月)23:08:18 No.1402747023 そうだねx1
>>ピースサインを返した。
>まで読んだ
全部読んでんじゃねぇか
19  26/02/16(月)23:09:36 No.1402747625 +
いかにして変な部門で参加するバトルなの!?
20  26/02/16(月)23:22:55 No.1402753876 +
レとラ
21  26/02/16(月)23:29:18 No.1402756807 +
何の何!??
22  26/02/16(月)23:51:58 No.1402767119 +
SSは初めての試みかな?仄かに香る百合の雰囲気が嫋やかで結構な御点前